2019年8月2日金曜日

マチュー・デュフォー フルート・リサイタル

2019年8月1日、マチュー・デュフォー フルート・リサイタル をトッパンホールで聴いた。忘れないうちに感想を簡単にメモる。

最近、フルートの表現力なんて大したことなくて、もういいかな、って思っていたが、今日の演奏を聴いて、目が覚めた。フルートの、もっと言えば音楽が表現できることって、こんなにあるのに、狭い世界に生きてそのことに気づけていなかった自分が本当に不幸だ(だった)と思った。今日これを聴けたおかげで、不幸のどん底から這い上がった気分。

デュフォーの演奏は、(フルート関係者みんなが欲しい)テクニック的なことはできるのが当たり前で、そんなところにはほとんど頓着なく(いや、演奏開始前にかなり長くとっている精神統一タイムで頓着しつくして)、その上の「音楽としてどう表現するか」に全てのリソースを差し向けていた。端的に言えば、音色とダイナミックスの表現を、その曲のその部分で伴奏との絡みも含めていかに適切に使い分けるか、それがまさに職人芸的にほとんどパーフェクトにできていた。

表現技術の職人芸だけではない。その音楽解釈そのものも素晴らしい。前半「フランスもの」、後半「ドイツ・オーストリアもの」というプログラム構成、それに合わせたモードスイッチが素晴らしい。前半は、自身の得意技領域であり、特に最初のプーランクの見事さと言ったら・・・でも、第1楽章の特徴的な音階上昇の最初の音を大げさにテヌートするなど今までのデュフォーとは違った一面もあったが、私にはこれは「ありあり」。自分でも散々さらって本番もやった曲だが、「難所をさらりとこなしているのがすごい」というレベルではなくて、もっともっと上の次元での「すごい」で、感動以外の言葉がない。ミヨーもマルタンも文句がない。

そして後半の「しぼめる花」。チューニングが低いと思ったが、案の定、最初のhが低かった。が、それは瞬時に修正され、その前後でほかに1音たりとも音程で気になった個所はなかった。すごい。で、しぼめる花も文句の付け所がないばかりか、テーマの部分は、明らかに原曲を聴いて、歌詞の内容を理解している、そういう表現の演奏で、表面的に美しく吹こうとか、そういうものは一切感じられない、ただただ音楽のしもべになっている演奏だった。

次の「ウンディーネ」だが。これは、巷のyoutubeで流れているプロだかセミプロだかよくわからない人たちのほとんど雑音とも言える演奏たちを全て抹殺したくなる気持ちにさせる演奏だった。とにもかくにも美しいし、速いパッセージが「うるさく」ないし、ちゃんと水の精になっているし、ピアノの見せ所はちゃんと静かにしているし、ffになっても音色は美しいまま、音程も全くブレない、ロマンチックなメロディー、それがロマンチックな和声を感じながらダイナミクスと音色の変化で表現されていく。何もかもが別次元であり、フルートがこんなに表現できる楽器だったとは今まで知らなかった。この曲ではないが、今までライブで聴いた、ツェラー、シュルツ、パユ、アドリアン、工藤、どの人でも感じなかったことだ。

デュフォーは、ベルリンフィルに入る前にシカゴ響など輝かしいキャリアを持っていて、その経歴で職人芸が磨かれていることがよくわかった。オーケストラでの経験は、音楽の深い理解に寄与しているようで、ピアノが単なる伴奏ではなくて、二重奏として扱って演奏していることがよく伝わってきた。

そういえば、今回のピアニストだが、本当にうまかった。浦壁信二さん。私はピアノのことはよく知らないが、「しぼめる花」「ウンディーネ」のピアノは本当に上手だと思った。テクニック云々よりも、音楽的にデュフォーと対等だったと思う。各曲の演奏後にデュフォーが彼を讃えているようなジェスチャーを繰り返していた。

後半は大曲を2曲演奏し50分に迫るような長大なものだったのに、アンコールは3曲もやった。シューマンのロマンスイ長調、ベートーヴェンのロマンスヘ長調、そして無伴奏でヴィヴァルディ四季春1楽章のちょっと面白い編曲版と、これまた長大だったが、最後までバテていなかったのはすごい。シューマンは低音域だが全然「鳴り」は衰えず、ベートーヴェンも全音域使い、特に最後は最高音のCのピアニッシモまで完璧にこなし、ヴィヴァルディは、面白編曲ながらヴァイオリンソロの速い3連符の例の難しいやつは原曲通りの感じのアレンジだったが、これも完璧。これが日々ベルリンフィルで鍛えられているパワーなのだな、別次元だなと、そういう感想しか出なかった。

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